中間層の解体

海水浴から帰ってきたら、大損していた。。。というような投資家が続出した、今回の株安と円急騰。サブプライムローンに端を発した世界同時株安と、それに伴う円高だということだが、マーケットの混乱は、23日の400円超の反発で、ひとまず復調したようにも見える。しかし、金融破綻の時みたいに、根本原因が容易につかめるならまだしも、今回はどこに病巣があるのか見当がつかないことが不気味だ。単に株価の揺り戻しで、何もなかったかのように済ますわけにもゆかないだろう。なぜといって、根本原因が不明なままでは、ついこのあいだまで、世界的な金余り状態だったものが、いつまたとたんに信用収縮しかねないものとも限らないからだ。


しかし、そもそも日本の景気の基盤はそんなに磐石なものだったのだろうか。単に、ドルにマネーが集まっていたための、おこぼれに過ぎなかったのではないか、と疑いたくなるふしもある。現に、アメリカがくしゃみをしたとたんに、あっという間に日本のマネー市場は混乱を呈してしまった。
一方では、混乱するマーケットを冷ややかに見つめる層がいた、と思う。主にそれは若年層である。特に、バブル崩壊後の就職氷河期に正規社員の職を得られなかった、20代から30代の若者たちである。彼らは、物心ついたときにはバブルがはじけ、就職では辛酸を舐め、今に至っても好景気の余禄を得られない層だ。なにせ、投資する金どころか、生活費にも事欠いているのだから、手も足も出ないのである。株安よりも、よっぽどこちらのほうが問題だ。
現代の日本に、生活にも困る若者層がいるなんて、そんなことはなかろう、というのが大方の、特に自民党政治家たちの意見だろう。曰く日本ほど平等な社会はないのである。もしくは、能力に応じて多少とも所得に格差がある社会のほうが成長する、などなど。現に、小泉前首相などは、「格差のどこが悪い」とストレートに言ってのけたものだ。
格差のどこが悪いといって、悪いに決まっているのだ。キャスタ付のバッグに服を詰め込んで、毎夜、インターネットカフェに寝泊りする若者が増えている社会、いわゆる格差社会は、いいわけない。
厚生労働省も、8月24日に、2005年のジニ係数が、0.5263と、過去最大になったという発表を行った(「05年所得再分配調査」)。ジニ係数というのは、世帯ごとの所得格差の大きさを表す数字で、1に近づくほど格差が大きい。今回は、前より0.028ポイント上回り、0.5をはじめて超えたということだ。まあ、通常は0.2から0.3で、0.5を超えると格差が大きく、社会が不平等であると言われているから、日本も立派な不平等社会の仲間入りである。
OECDの数字では、日本はだいたい諸外国の真ん中に位置していたけれども、今では先進国ではアメリカに代表される不平等な国のグループに入ってしまっている。
まあ、ジニ係数がどうの、とかいうことは、絶望している若者には関係ないだろう。小島よしおみたいに、「でも、そんなの関係ねえ!」と言いたいにちがいない。これからどうなるのか、それが不安だ、というのが本音にちがいないのだ。年金を払っていないフリーターは、数十年したら確実に貧困層に転落する。これからどうなるのか。。。
これからどうなるのか。。。しかし、こういったことは、過去の歴史では繰り返し起こっていることだ。
古くて有名なところでは、マルクスが、『ヘーゲル法哲学批判序説』(岩波文庫 城塚登訳)で言っていた事態がそれである。「プロレタリアートは急に起こってきた産業の活動を通じて、ようやくドイツにとって生成し始めつつある。なぜなら、自然発生的に生じてきた貧民ではなくて、人為的につくりだされた貧民が、社会の重圧によって機械的に抑えられた人間集団ではなくて、社会の急激な解体、ことに中間層の解体から出現する人間集団が、プロレタリアートを形成するからである」
バブル崩壊後に起こったのは、中間層の解体という事態である。世界まれにみる平等社会を誇っていた日本は、その厚い中間層が支えていた。所得の再配分が間接税中心に行われ、国民全体が広く薄くそれを享受していたからだ。しかし、今では、竹中平蔵が描いたビジョンに基づいて小泉自民党が実施してきたように、また、かつての小沢一郎がそう主張していたように、格差を許容し、国際競争に勝てるよう、日本の社会は変質してきた。その最たる結果が、中間層の解体に伴うプロレタリアート貧困層の出現だ。
プロレタリアート貧困層なんて、ずいぶん古めかしい言葉を使う、と思われるかもしれないが、しばらくのあいだこの言葉が該当する階層が日本にいなかったから、使わなかっただけの話だ。
今や、貯蓄のない世帯が、80年代までは5%だったのに対し、22.8%にまで増えている。彼らは、無論、投資など考えることもできない階層である。
また、非正規労働者も増えた。1995年には、正規労働者3779万人、非正規労働者1001万人だったのに対し、2005年には、正規労働者3374万人、非正規労働者1633万人と、ここ10年の間に正規労働者が約400万人減り、非正規労働者が約630万人も増えているのだ。(以上、岩波新書『格差社会』より)
景気を担うのが、株式保有者だけではなく、消費者である以上、今後も経済、社会は彼らに左右されるであろう。のみならず、参院選で如実に結果が出たように、生活費にも事欠く階層であっても、選挙権は持っているわけなので、不平等な社会を作ってきた政権は倒されてしかるべきなのである。
加えるに、好景気を支えるマーケットまで混乱するに至っては。。。今すぐ安倍シンゾー内閣は退陣すべきであろう。先行き不透明な社会が出来上がりつつある根本原因は、そこにあるのだから。

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