被災地とアート

東京芸術大学大学美術館で、「いま、被災地から-岩手・宮城・福島の美術と震災復興-」という美術展が開催されている(6月26日まで)。これは2011年の東日本大震災で大きな被害を受けた陸前高田市立博物館や石巻文化センターの復興の経過の報告と、東北地方ゆかりのアーティストの作品を合わせて紹介した稀有な企画である。

企画第1部で東北地方の作家の紹介をしているが、岩手県の展示では、著名なところで父子ともに彫刻界で活躍してきた舟越保武の「萩原朔太郎像」をはじめとする作品がある。また、大船渡市で活動する佐藤一枝は、震災後、土砂に埋もれた自らのアパートから拾い集めた雑誌やフィルムの断片を、布に縫い込んだ作品を制作しているのが目を引いた。
宮城県の展示では、日本の彫刻界を代表する作家、佐藤忠良の「帽子・夏」など著名な作品が出品されている。福島県のそれでは、写真家の瀬戸正人が「セシウム」の連作で、県内各地の見えない放射性物質をイメージで写真に定着させる試みを行っていることを今回知った。
企画第2部では、被災した美術作品と、そのレスキュー活動の展示という、かつてない催しが行われている。陸前高田では、博物館の庭に展示していたブロンズ像の腕がもがれ、台座ごと足がもげた状態で展示がされていた。
また、石巻文化センターでは近くの大きな製紙工場が被災したため、油彩画にパルプが貼り着いた写真と、そこから苦労の末復元した作品を見ることができた。
こうした努力ののち、この展覧会は5年後にやっと開催にこぎつけたのである。が、展示品の修復もさることながら、陸前高田市立博物館では6名、石巻文化センターでも1名の館員の方が津波に遭い、犠牲になったことが書かれていた。ご冥福をお祈りしたい。
芸大美術館は、「若冲展」でにぎわう東京都美術館の裏手にある。私が見たとき、若冲は210分待ちと看板に書いてあった。
「いま、被災地から」は、佐藤忠良や舟越保武の著名作品を見ることができて、待ち時間はゼロである。もし若冲に挫折した方がおられたら、ぜひ芸大に寄ってみることをお勧めしたい。

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