アプリで蘇るストップモーションアニメの世界

先日、カンヌ国際映画祭で、日本最古の長編アニメーション『桃太郎 海の神兵』(1945年上映)のデジタル修復版が上映されて話題になった(AmazonからオンデマンドDVDも発売されている)。これはセルと呼ばれる透明シートに描いてフィルム撮影したもので、その後の手塚治虫をはじめとする日本のアニメーションに多大な影響を与えてきた記念碑的作品だ。

こうしたCG以前の作品では、切り絵や水彩、セロファンなどの素材を用いて『話の話』『霧の中のはりねずみ』などの傑作を作ったロシアのユーリ・ノルシュテインや、『アリス』や『ファウスト』など、チェコスロバキアのヤン・シュヴァンクマイエルが人形、クレイ、実写などを使って作った、表現豊かな作品が有名で今ではDVDで鑑賞できる。
ところで最近、Youtubeなどの個人制作の動画の世界では、デジタルカメラによる、ストップモーションアニメが流行っているという。専用アプリもいくつかあって、主にスマホで動画をコマ撮りしてつなぐことによって、個人がモノや人を材料にして、手軽に作品を作ってYoutubeにアップしているのだ。
有名な個人作品では、アメリカのPESの作品などがある。ドーナツ・セルフィーの発明者カレン・チェンも、最近ではストップモーションアニメを試みている。古い手法を最新の技術で蘇らせたのが新鮮だが、普通に動画を撮るのではなしに、なぜ今わざわざコマ撮りした作品が流行し、『桃太郎 海の神兵』が話題になるのだろうか。
映画というものは、そもそも連続写真で動いているものを捉えたいという欲望から生まれたものだった。スーザン・ソンタグは『反解釈』の中で映画を論じて、「透明」ということこそ、現代の芸術において最高の価値である、と言っている。「透明とはもの自体の、つまりあるものがまさにそのものであるということの、輝きと艶を経験することの謂いである。」(高橋康也訳)
ストップモーションアニメによって、連続写真という、もともと映画がそうであった輝きの経験を取り戻すことが可能になった。そうして、作者は日常の時間の流れを断ち切り、ありふれた現実を簡単に非日常の世界に置きかえることができる。これらのことを個人が手元で簡単にできるようになったことが、ストップモーションアニメ流行の理由なのではないだろうか。

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