運を支配する

再開第1回のBサファリ記事を何にしようか、ずっと考えていた。
考えすぎて、書けなくなっていたので、手近なところで本の感想から行くことに。仕事でスランプに陥った時、読むといいかもしれない本。

ふと昼休みにのぞいた書店の新書コーナーで、目に止まったのがこの本、『運を支配する』(幻冬舎新書)。著者は20年間麻雀無敗の記録(って、そういう記録があるのを初めて知った)を持っている桜井章一氏と、サイバーエージェント社長の藤田晋氏。最初は、なーんだ、オカルト本かと思って、書店のフロアを後にしてエスカレーターで一つ下の階に降りたのだが、ふと気になって再度上がって買い求めた。
「運」についてのオカルト本に、何ゆえ藤田氏なのだろう、という疑問からページを繰ると、どうやらサイバーエージェントの社長は無類の麻雀好きらしい。というよりも、昨年、「麻雀最強位」タイトルを獲得というから本格的だ。その二人が師弟関係にあり、桜井氏、藤田氏の順番で「運」を呼び込むための秘訣を経験的に述べた本なのである。

桜井氏曰く、「私は運は自ら呼び寄せるものではなく、「運がその人を選ぶ」と思っている」という。でもそれは、ツキを呼ぶために、オカルトな祈りなど捧げるわけではなく、まっとうな行動をとること、すなわち「普段からしかるべき準備をし、考え、行動をしていれば、おのずと運はやってくるものだからだ」というのである。
これは「シンプル」という章の言葉だ。
初心者の打ち手が勝利するのは、知識や経験がないため、シンプルに行動するからである、という。なまじ複雑に考えすぎる事から、運は逃げて行く、という理屈である。なるほど、合理的でわかりやすい。麻雀も仕事もシンプルが一番か、確かに。

藤田氏もそれに答えて、「経営というのは、単に頭がよくて真面目に努力をするだけでうまくいくものではありません」と言っている。「「勝負勘」とは、要は流れを見極める力のことですが、気をつけないといけないのは、さまざまな流れの中には騙される流れも存在していることです」ということだ。
「流れ」の存在。この流れの正邪を判断できれば、勝負には勝てるということか。「流れ」を見極める技術についての説明はあまりないけれど。

二人の経験には「ゾーン」という不思議な言葉も出てくる。曰く「『ゾーン』に入る仕掛けをつくる」のが大事なのだという。こればかりは成功者が乗っている悟りの境地のようなもので、具体的にはイメージできなかった。
むしろ、「洗面器から最初に顔を上げたやつが負ける」とか、「力みがすべてを台なしにする」「パターンができたら自ら壊せ」「スランプに陥ったら意識的に「間」を置け」「ネガティブな連想は意識的に切る」「ポジティブ思考は成長を妨げる」「不調のときは「基本動作」に立ち返る」といったワードの方がずっと参考になる。

これらの教訓は、アナログ派ならではのものだろう。この本の中には、現代のネットを利用した対戦麻雀の世界では、麻雀の「ツキ」とか「運」を云々する人々はオカルト派として揶揄されるのだ、と書いてある。彼らネットのデジタル派は、打ち手の上がりの役手の傾向や、リーチの回数などの統計を取り、対戦に応用しているのだ。
それでも桜井氏の麻雀の打ち方は、「運」や「ツキ」を語る昔ながらのスタイルなのであって、いわば阿佐田哲也のかつての小説作品を彷彿させるところもある。デジタルでは物語にならないのだ。

いよいよこの本も後半になり、むしろ桜井氏は、「努力に囚われすぎないためには、周りの人への感謝の心を持つことも大事だ」という。「つまり、それだけ努力できたのは自分一人の力だけではなく、環境や周囲の人のおかげだと思うのだ」とのこと。
また、藤田氏は、「また社内、社外にかかわらず、たとえ口約束であっても、交わしたことはその場でメモをとって必ず守るようにしています」「「どんな小さな約束でも守ってくれる」ということが、どれだけ大きな信頼につながるか、僕は身をもって知っているからです」と言う。

まてよ、周囲への感謝とか、約束、信頼、というワードは、ふつうのビジネス書、自己啓発本の世界の決まり文句ではないか。「運」とか「ツキ」はどこへ行ったのであろう、と思うのはきっと私だけではないはず。
つまり、「運を支配する」極意は、この本の最初で藤田氏が「桜井会長から学んだことで、仕事や人生でとくに大きな影響を受けたもの」として上げている、「己を律する」ということ、それから「正々堂々と戦う」の2つだったのである。
最後のオチはここにあったのか。ま、オカルトで成功するはずはないし。ちょっとがっかりか。でも、麻雀の世界でさえも、自律と素直は成功の基本なのだというところは、あらためて勉強になる。

「運」に関する本は、他にもいろいろあるので、また紹介してゆきたい。

http://www.amazon.co.jp/運を支配する-幻冬舎新書-桜井-章一/dp/4344983742

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