一年締めくくり本は『私の男』

今やたら評判がいい吉田修一の『悪人』で一年締めくくろうと思っていた。
けれど、あいにく本を会社においてきてしまった。
かわりに手元にあったのは、桜庭一樹の『私の男』。
僕がもっとも信頼している本読みの一人、読売新聞文化部の主である鵜飼さんが、紙上で今年ナンバー1と絶賛していた小説だ。


いやはや、コワイ小説である。
ホラーではない。
恋愛小説なのに、怖くて怖くて圧倒された。
この男名前の女流作家、危険である。
おそらく女が読むと、もっともっと怖さにリアリティーがあるだろう。
カラダの深奥をえぐるようなリアリティーを、粘りのある文体で練り上げていく。
その文章力が素晴らしい。
オホーツク海の描写が見事。
構成力も素晴らしい。
最初は何の物語かよくわらない苛立ちを感じさせるかもしれない。
読み進めて腑に落ちたときの快感がいい。
多視点で語るのはよくある書き方だし、時間を逆立ちさせる手法も、あるといえばあるのだろう。
でもこの小説は、時間を遡っていった先の、その一点が怖ろしすぎて効果的。
最終章は小学生の子供の視点のはずだが、本作の中でもっとも大人っぽい。
桐野夏生の『柔らかな頬』の最終章もたしか、事件に巻き込まれた子供の視点だったけれど、完全に子供の視点で書かれていた。
本作の場合、ミスではないと思うので、何か仕掛けがあるのだろう。
それが、なんだったのか、うーん、誰かに教えてほしい。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です