吉野屋では特盛を頼め?

『スタバではグランでを買え!―価格と生活の経済学』がメチャ売れ。
「値段から社会のしくみが見えてくる」というオビのコピー。
それにサブタイトルからわかるように、そんなに新味のある内容なの?という感じ。
むしろ地味。
スタバものも、ちょっと飽き飽き。
それなのに、それなのに。
ビジネス書編集者から見たら、うらやましい限りだ。


なぜ売れるのか。
それは単純に内容のよさだと思う。
この本の切り口は「取引コスト」。
モノを買ったり、サービスを受けたりするときにかかる手間のこと。
これには、時間、人件費、労力、距離、重さなど、いろいろある。
たとえば、わざわざ遠くまで出かける時間を節約させてくれるなら、人は喜んでたくさんお金を払う。
スーパーの中まで行って買えば105円のドリンクを、すぐそばにある自動販売機なら120円で買うように。
これがわかると、たしかに今まで何となく直感的に理解していたことが、ロジックでわかるようになる。
秋葉原や池袋には、なぜ競合するパソコンショップが密集するのか。
客を食い合って不利益ではないのか。
「一箇所に集まっていたほうが客が便利じゃん」
まさにその通り。
その直感を「取引コスト」はきちんと説明をつけてくれる。
客はそのエリアに行けば、必ず目当てのものが見つかり、購入する。
時間をムダにすることがない。
店舗の密集によって、客の「時間」という取引コストを低くしているのだ。
タイトルになっている話もそう。
スタバでSが280円の飲み物も380円の飲み物も、分量2倍のグランデは同じ100円ずつ高い。
でも280円が380円になるなら、380円の飲み物は515円にならないとヘンじゃない?
いやいや、それはちっともヘンじゃないよ、飲み物代より人件費のほうが高いんだから。
直感的にそうわかる。
それをこの本の説明だと。
コーヒー豆など原料費は一杯たかだか2円くらい。
280円という値段のほとんどは、人件費、賃貸料、設備投資といった取引コストでいっぱいいっぱい。
だからグランデにしても原料代はほんのわずかなので、どんな飲み物でも100円だけ上げればいい。
ということは、増量した分のほとんどが利益になるから店が幸せになるのはもちろん、100円だけ余計に払えば倍の量飲める客も幸せ。
両方とも幸せだからスタバではグランデを買う客が多いそうだ。
じっさい、昨日発表されたスタバの中間決算の内容はものすごくよかった。
では。
私の好きな吉野屋の牛丼特盛。
牛丼の並は380円、特盛は630円である。
その差250円。
具が2倍で250円高いのだから(つまり並のほとんどが具の代金ということだ)、これはスタバと違って原料代の占める割合が高く取引コストが低いモデルということになるのだろうか。
著者に訊いてみたいものだ。

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