新入社員に捧ぐ

新入社員の諸君、入社、おめでとうございます。
いきなりですが、たぶん皆さんは、日曜の夜になると、明日朝、会社に行きたくないな、と思うにちがいありません。
何? そんなことはない? 会社に行くのがわくわくする? それはまあ、シアワセなことですね。無理して言わなくてもいいですよ。そんなこと言えるのは、会社では社長ただひとりだけですからね、普通は。
いや、社長でさえ、苦しいときは、「ああ、今日は会社行きたくないな」と思うかもしれません。でも、社長さんはそういう時は、休めるからいいんですよね。


我々、古参(中堅と言わず、そう言ってしまう)の社員は、代わりのいない仕事を抱えて休めないので、こんなに長く勤めているのに、もう毎朝、「今朝は会社、行きたくないな」と思いながら出勤するんです、はい。そうじゃない、毎朝、ルンルンでお勤め、という輩がいたら、そいつは本気でやってないにちがいない。本気の奴も、手抜きの奴も、基本、「明日は(今朝は)、会社行きたくない」でいいのです。
中には、無理して会社行ってるなんて、そんな生き方はよくない、自分の気持ちに忠実に生きろ、などと無責任なことを言うヒョーロン家さんもいます。そういういい加減な先生方のお説のおかげで、かつて景気のいい時代、「自己実現」のために多くの若者が、入社3年もたたずに辞めていきました。辞めてどうしたかというと、派遣社員になって、給料が激減して、また戻ってきただけです。いや、戻ってこない人はもっと多いです。
この「自己実現」というのが曲者です。
いいですか、組織の中で、自己を実現できるなんて、ごく一握りです。組織の中の「自己実現」とは、早い話がトップマネジメント、つまり社長になることです。
社長なんて、会社にひとりしかいませんからね。みんなが「自己実現」を果たせるように、次から次へ社長交代が行われたとしても、社員の全員が社長にはなれません。同様に、役員にも部長にも、これだけ景気が悪くなると課長にさえ半分以上の人がならないでしょう。
マネジメントになることを、組織の中の「自己実現」と呼ぶなら、マズローの言う、人間の欲求の5段階目は果たされずに終わるでしょう。希望に満ちて入社してきたみなさんの前でこんなことを言いたくはないのだけれど。
しかし、組織の中の人間にとって、一番大事なのは「自己実現」でしょうか。組織で生きるには、ほとんどの人がその4段階目、「承認欲求」の充足をもって、仕事の意欲を満たすことは可能でしょう。
上司に、同僚に、お客さんに仕事を「承認」してもらうことに勝る、満足感はないでしょう。その結果が、ポストという「自己実現」かもしれませんが、まずはみなさんの仕事の小さな積み重ねが「承認」されないことには始まりません。
というわけで、まずは会社に行かなくては始まらないのですが、組織の中の個人は葛藤なしには他者に「承認」を得る仕事を完了することはできません。毎朝、憂鬱になる所以です。
しかし、私がはるか昔に入社以来、変わらず、「明日は(今朝は)、会社行きたくない」と思いつつ、いまだに会社に通っていることだけは、新入社員のみなさんにちょっとだけ自慢です。
で、みなさんへの餞は、「明日は(今朝は)、会社行きたくない」と思いつつ、長距離マラソンと思って、長く継続することだけ考えてください、というものです。無論、時が来れば、独立して会社を興すもよし、転職もよしですが、行った先でもまた「明日は(今朝は)、会社行きたくない」と思うのは同じです。
そうして、長く続ける間に、みなさんの仕事は、誰にも代わりのできない、大事な仕事として多くの人に「承認」されることでしょう。そして、「明日は(今朝は)、会社行きたくない」と思ったら、どう自分に折り合いをつけて出かければいいか、気づくでしょう。これだけは請合います。
健闘を祈ります。

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