ヘーゲルの不安(311後の世界5)

以前、このサイトのどこかに、ヘーゲルの有名な主と奴の弁証法を取り上げた。
そこにも、不安が重要なキーファクターとして出てくる。
主は、主として人間的にふるまうことができるが、奴が人間的であるのは、最初は自己が主に対して隷属的である中で人間性を次第に発展させ、完成することによる、というちがいがある。つまり、奴は主の命令によって生かされているに過ぎないから、自己の人間性は、自らの自由にならないが、一方、主は何者にも妨げられることなく、主体的に自由を行使できるのだ。最初は。

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水の「不安」(311後の世界4)

というわけで、『博士の異常な愛情』を唐突に持ち出してしまったけれど、この映画には「不安」を象徴する逸話が出てくる。
ある日突然、ソ連の謀略に対して妄想が膨らみ、ひとりで勝手に、大統領の許可もなくソ連に対する核攻撃を命令したリッパー将軍という人物が、物語の発端に登場するのだ。そうして、司令部に立てこもると、ピーター・セラーズ演じるマンドレイク大佐に、「水道水にフッ素が入っているのは、共産主義者の陰謀だ」と熱く説く。
どうやら、アメリカでは虫歯予防のために、ほんとうに水道水にフッ素が入っているらしいが、ほんとかどうかは知らない。ちなみに、セラーズはこの映画で、ストレンジラブ博士、大統領、英国空軍大佐マンドレイクと、1人3役をこなしている。

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博士の異常な愛情(311後の世界3)

「気分」だとか、対象をもたない「不安」だとか書いたけれど、当然、反論ばかり起きるにちがいない。
曰く、対象はあきらかで、次の大地震や、繰り返し起きるかもしれない原発事故に決まっているだろう。だから、今まで隠れていた「不安」の「気分」が改めて露わになったなどということはなくて、地震や原発事故がなくなれば、消えるはずだ。
「気分」などという曖昧なものに支配されているのではなく、ましてや、対象のない「不安」のせいで水を買い占めるのではなくて、放射性物質の恐怖に駆られて、無駄な買い物に走っているのである。云々・・・。

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不安な気分(311後の世界2)

311後の世界を象徴する、もうひとつの現象は、不安な気分だろう。
「不安」とか「気分」とか、あんな大災害が起きたのだから、当たり前だろうと言われるかもしれない。
しかし、ここでいう「気分」とは、その昔、実存哲学、特にハイデッガーが言った「気分」のほうに近い。ハイデッガーの「気分」とは、単なる知覚や感情ではなく、人間の存在を規定する時代精神の根本的情調性のことだ。
根本的情調性などという、わけのわからない言葉を使うのはやめてくれ、と言われそうなので説明すると、ふだんは気づかないが、ひとたび大事が起きると露わになってくる、人間の存在を基礎づける根本的「気分」のことである。
同じコトをたとえば、藤田省三氏は、太平洋戦争直後、思想の崩壊した後、その土台を構成する「気分」や情緒というものが注目されたと言っているが、311後はちょうど同じことが起きているのだろう。

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浜岡原発停止(311後の世界1)

東日本大震災の衝撃があまりに大きく、ずっと書けないでいたが、その後、311後の世界を象徴するような大事件が起きたので、なんとか書いてみることにした。
大事件とは何か。
ついに、浜岡原発が停止となったことだ。
浜岡原発とは何か。
東海地震の震源地の真上(御前崎近辺)に立地し、東日本大震災が起きる前から、危ないと言われつづけていた原発だ。

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カンニングが刑事事件か

あらためて言うまでもなく、今の世の中で大きな事件には、IT技術が関わっている。
京大カンニング事件は言うまでもなく、海上保安庁職員のyoutubeでの尖閣ビデオ流出の経路もそうだ。
政治家が自らの地位を失う原因も、最近はほとんどと言っていいほど、ネットからの流出情報ばかりである。故中川昭一元財務大臣が先進7カ国財務相・中央銀行総裁会議(G7)で、酒に酔った姿も、youtubeで全世界に流されてしまったし、前原外相が、民主党代表を辞任したのも、偽メール事件が原因だ。
相撲の八百長が発覚したのも、IT技術が進歩して、携帯電話で消去していたはずのメールの記録が再生されてしまったからだった。いや、大昔のフロッピーディスクでさえ、下手な手つきで改竄したため、郵便不正事件をめぐる、大阪地検の前特捜部長らの逮捕という大事件に発展する。

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「三国志」はビジネスの役に立つか?

正月に入ったらDVD三昧の計画だったのですが、正月にならないうちに『レッド・クリフ』のPart2も観てしまいました。いわゆる「三国志」のハイライトシーンのひとつ、赤壁の戦いの映画化です。
諸葛孔明を、眉目秀麗な、あの金城武が演じています。知的な風貌がぴったりですね。しかも、三国志の記述どおり、羽扇を始終パタパタやっていて、戦いが終わると呉の大都督の周愈に「今後は庵で寝ていたいですね」とのたまうなど、孔明の超俗ぶりをかっこよく演じています。
実際の「三国志」でも、諸葛孔明ほどかっこいいスターはいないんですね。臥竜鳳雛(がりょうほうすう、とタイプすると一発で出てきます)と言って、才能を隠して畑仕事をしていたところ、劉備玄徳が3回訪ねていってやっと軍師になることを承諾したとか(三顧の礼)、とかく話題に事欠きません。
雲の動きで天候の異変を察知して、戦いを勝利に結びつけたりするのは序の口で、鬼面人を驚かす策を繰り出します。矢を調達するのに、藁人形を積んだ船で敵陣に乗り込み、たっぷりと藁に射掛けさせて、もらって帰ったり、敵兵を亀甲型の味方陣地の奥深くへ誘い込み、盾に守られた密集戦術で破ったりと、「三国志」を読む楽しさは、孔明の名探偵ばりの大活躍にあると言っても過言ではありません。(本のほうは、かなり楽しいです)

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『坂の上の雲』のブログライター

『坂の上の雲』の第二部が始まり、地上波デジタルの映像を録画して見始めた。録画しないと見逃してしまうので。
実は、第一部を何の気なしに見始めたら、NHKのあまりの力の入れように圧倒され、最後のほうはきちんと時間どおりに鑑賞していたのだが、解説を読むと3年に渡り毎年の年末に放送するというので、これまた驚いていたのである。大河ドラマ以上に、大金を投入して作っていて、低予算で作るミニ映画などを金額ではるかに上回っているだろう。
無論、司馬遼太郎の原作は大昔に読んでいた。しかし、あの作品は格好だけはそうであるけれど、小説として完全に破綻していると思う。その証拠に、作者・司馬氏自身が作中に解説者として顔を出し、「この小説は破綻して云々」と書き付けている始末である。もしかしたら、ヌーボーロマンのつもりであったのかもしれないが。

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