カテゴリー別アーカイブ: 311後の世界

水の「不安」(311後の世界4)

というわけで、『博士の異常な愛情』を唐突に持ち出してしまったけれど、この映画には「不安」を象徴する逸話が出てくる。
ある日突然、ソ連の謀略に対して妄想が膨らみ、ひとりで勝手に、大統領の許可もなくソ連に対する核攻撃を命令したリッパー将軍という人物が、物語の発端に登場するのだ。そうして、司令部に立てこもると、ピーター・セラーズ演じるマンドレイク大佐に、「水道水にフッ素が入っているのは、共産主義者の陰謀だ」と熱く説く。
どうやら、アメリカでは虫歯予防のために、ほんとうに水道水にフッ素が入っているらしいが、ほんとかどうかは知らない。ちなみに、セラーズはこの映画で、ストレンジラブ博士、大統領、英国空軍大佐マンドレイクと、1人3役をこなしている。

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博士の異常な愛情(311後の世界3)

「気分」だとか、対象をもたない「不安」だとか書いたけれど、当然、反論ばかり起きるにちがいない。
曰く、対象はあきらかで、次の大地震や、繰り返し起きるかもしれない原発事故に決まっているだろう。だから、今まで隠れていた「不安」の「気分」が改めて露わになったなどということはなくて、地震や原発事故がなくなれば、消えるはずだ。
「気分」などという曖昧なものに支配されているのではなく、ましてや、対象のない「不安」のせいで水を買い占めるのではなくて、放射性物質の恐怖に駆られて、無駄な買い物に走っているのである。云々・・・。

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不安な気分(311後の世界2)

311後の世界を象徴する、もうひとつの現象は、不安な気分だろう。
「不安」とか「気分」とか、あんな大災害が起きたのだから、当たり前だろうと言われるかもしれない。
しかし、ここでいう「気分」とは、その昔、実存哲学、特にハイデッガーが言った「気分」のほうに近い。ハイデッガーの「気分」とは、単なる知覚や感情ではなく、人間の存在を規定する時代精神の根本的情調性のことだ。
根本的情調性などという、わけのわからない言葉を使うのはやめてくれ、と言われそうなので説明すると、ふだんは気づかないが、ひとたび大事が起きると露わになってくる、人間の存在を基礎づける根本的「気分」のことである。
同じコトをたとえば、藤田省三氏は、太平洋戦争直後、思想の崩壊した後、その土台を構成する「気分」や情緒というものが注目されたと言っているが、311後はちょうど同じことが起きているのだろう。

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浜岡原発停止(311後の世界1)

東日本大震災の衝撃があまりに大きく、ずっと書けないでいたが、その後、311後の世界を象徴するような大事件が起きたので、なんとか書いてみることにした。
大事件とは何か。
ついに、浜岡原発が停止となったことだ。
浜岡原発とは何か。
東海地震の震源地の真上(御前崎近辺)に立地し、東日本大震災が起きる前から、危ないと言われつづけていた原発だ。

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