カテゴリー別アーカイブ: こんな時には、こんな本

スピリチュアルな人は努力がおキライい?

ベストセラー街道まっしぐらの『ザ・シークレット』。
『聖なる予言』の山川夫妻久々の真骨頂発揮という感じだ。
爆笑ツッコミネタ満載である。
思いは現実化する。
あなたの身に起こる良いことも悪いことも、あなたが「引き寄せ」たこと。
だから良いことだけを思い、宇宙にお願いし、それを信じよう。
そうすれば時間の長短があっても、かならず宇宙があなたの思いを現実化してくれる。
こんな「秘密」という名の戯言を、何人もの自称作家や「講演家」たちがしゃべり散らす、同タイトルのDVDの内容を本にしたもの。
これだけの物量を全米で売ったのだから、バックには相当力のある団体がついているのだろうか。

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書店は瞬時に情報の歪みを除く市場だ。

『佐藤可士和の超整理術』を、広告代理店出身の編集者に薦めたら、こんな反応が返ってきた。
マーケッターは無色透明になろうとしている。
自分の好みを入れずに分析する。
対して編集者はマーケット分析すらせず、自分の好みで押し通す。
佐藤の本を編集論として読むのは無理があるのでは?
そうだろうか。
改めて書店というものを見てみよう。
今更ながら本の多さに驚く。
書店はまるで株式市場のようなものだ。
足りない情報は瞬時に充足され、株価に反映される。
消費者が足りないと考える本は瞬時に書店に充足される。
たとえマーケット分析すらしない強引な企画であっても、何人もの著者や編集者の活動を通して、それらは消費者が足りない情報を満たしていく。
結果として、マーケッターが考える読書市場を実現する。
マーケッターと編集者は、まったく異なるアプローチで、同じ結果を作り出すのだ。
だから、この本を編集論として読むのは可能なのだと思う。

ビジネス書はネジである。

『佐藤可士和の超整理術』の中に、ユニクロの話が出てくる。
ユニクロのニューヨーク旗艦店のADを依頼された。
それで柳井会長にヒアリングをしたとき、感銘を受けた言葉があった、という。
「服は服装の部品です」
ユニクロは部品(パーツ)としての服を作り、それを客が自由に組み合わせるのだ、という。
この箇所でも目からうろこが落ちました。
トータルファッションではなくパーツ。
だからユニクロは同じアイテムに圧倒的なカラーバリエーションを備える。
昔の鉄道模型ファンからすると、ユニクロのあの品揃えが、部品を圧倒的な物量感で陳列する模型店のように見えたのは、そのせいなのかもしれない。

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プロの仕事を視覚化した本『佐藤可士和の超整理術』

元博報堂のクリエイター。
日経系の雑誌などを通じて、「とにかく仕事ができる人」としての認知度抜群。
…なんてことはわかっていたが、ビジネス書編集者としては、
「やられた!」
の一言だ。
これ、いい本である。
プロとして日頃やっていることを言語化しているので、ものすごくリアリティがある。
というか、エラそうに言えば、小生だってやっているようなことなのだ。
この著者にとってのクライアントが、私にとっては著者。
だから、
「大切なのは相手の思いを整理すること」
「整理するには客観的な視点が不可欠」
「思考回路の整理をきっちり行うようにしたら、あいまいな部分がどんどん消えていく」
「問題の本質を突き止めることとは、プライオリティをつけること」
「他人事を自分事にする」
「問題解決の手がかりは必ず対象の中にある」
といった主張は、むしろ当たり前のようにやっている。
しかし、こういうふうに視覚化してはこなかった。
それが新鮮なのだ。
デザインとは整理である、と著者は言う。
デザインを編集に置き換えても、この本の内容は成り立つ。
編集も、整理である。

LIFE HACKS本

シリコンバレー発の、人生を豊かにするアイディアの集積といった意味の言葉に、「LIFE HACKS」というものがある。HACKSという言葉は元々、コンピュータの世界で、プログラミングに関する便利な裏技や、アイディアをまとめたものを指すのだが、これを人生全般にまで拡張して、生きる知恵としてとらえたのが、「LIFE HACKS」だ。仕事を効率よくこなして生産性をあげ、生活のクォリティをあげよう、というほどの意味である。
このシリコンバレー流の軽やかな生きる知恵を、日本版にしてまとめようという企画が、『IDEA HACKS!』『TIME HACKS!』『PLANNING HACKS!』である。「今日スグ役立つ仕事のコツと習慣」などという副題を見れば、日ごろ、うんうんうなりながら仕事に追われる当方としては、すがりつく気持ちで紐解いてみたくなるようなタイトルではないか。

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『売れないのは誰のせい?』山本直人(新潮新書)

身につまされるタイトルだ。現に、今年に入って、「売れないのはおまえの(おまえの部門の)せいだ」と何度詰問されたことか。。。いや、これは私事なので、どうでもいいことだが。
売れないのは販売のせいだ、いや、開発のせいだ、販促が悪かった、などと責任のなすりつけをしあうのは、実にネガティブなことだ。「今回は売れなかったけど、次回はがんばろう」がポジティブな発想というものだろう。売れれば、「わが営業部の販売力のせい」だったり、「商品力の賜物」だったり、口々に言い募っても、結局は笑っていられるのであるが。。。
。。。いや、しかし、商品が売れなかったときこそ、日ごろの秘められた感情があらわになる。歳寒くして松柏の凋むにおくるるを知る、だ。危難のときこそ、人の真価がわかるものだ、という論語の言葉が身にしみる。(意味はWikipediaなどで調べてください)危難の時に限って、口汚い罵りあいが始まるのである。「売れないのは誰のせいだ!」と。

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紅一点論 ~企業組織のエヴァ的崩壊~

今年のゴールデンウイークは長かった。特段予定もないのに、5月1日と2日を休みにしたもんだから、9連休になってしまい(って、自分でそうしたんだが)、PDCAを回すことがかなわず(って、そもそもPがないよ)、毎朝やることがなくて往生しました。
こんな時には、こんな本、でしょう。
斎藤美奈子。しかも、『紅一点論』の文庫版。斎藤美奈子は、再読に耐えるんですよね、最近の物書きには珍しく。
『紅一点論』は、アニメや児童向けの伝記を、チームの中の紅一点の数、というところに着目して分析を行った、表象批評の名著。ほら、ウルトラマンの科学特捜隊も、ウルトラセブンのウルトラ警備隊も、女性隊員はひとりぽっち、つまり紅一点でしたよね。実に着眼点がいいですね。
さて、ウルトラマンの世界は斎藤女史曰く、戦争ばかりしている「男の子の国」の論理につらぬかれた、差別的なそれなんですが、対するに魔法使いサリーの日常はこれまた非科学的な魔法が跳梁跋扈する「女の子の国」です。それが、『機動戦士ガンダム』になると、論理が曖昧になってゆき、ついには『エヴァンゲリオン』になると、”腐った家族の世界”に到達します。なぜなら、男女の数の比率のバランスが崩れてくるから。。。

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