「三国志」はビジネスの役に立つか?

正月に入ったらDVD三昧の計画だったのですが、正月にならないうちに『レッド・クリフ』のPart2も観てしまいました。いわゆる「三国志」のハイライトシーンのひとつ、赤壁の戦いの映画化です。
諸葛孔明を、眉目秀麗な、あの金城武が演じています。知的な風貌がぴったりですね。しかも、三国志の記述どおり、羽扇を始終パタパタやっていて、戦いが終わると呉の大都督の周愈に「今後は庵で寝ていたいですね」とのたまうなど、孔明の超俗ぶりをかっこよく演じています。
実際の「三国志」でも、諸葛孔明ほどかっこいいスターはいないんですね。臥竜鳳雛(がりょうほうすう、とタイプすると一発で出てきます)と言って、才能を隠して畑仕事をしていたところ、劉備玄徳が3回訪ねていってやっと軍師になることを承諾したとか(三顧の礼)、とかく話題に事欠きません。
雲の動きで天候の異変を察知して、戦いを勝利に結びつけたりするのは序の口で、鬼面人を驚かす策を繰り出します。矢を調達するのに、藁人形を積んだ船で敵陣に乗り込み、たっぷりと藁に射掛けさせて、もらって帰ったり、敵兵を亀甲型の味方陣地の奥深くへ誘い込み、盾に守られた密集戦術で破ったりと、「三国志」を読む楽しさは、孔明の名探偵ばりの大活躍にあると言っても過言ではありません。(本のほうは、かなり楽しいです)


が、映画は往年のハリウッドの大活劇を模しただけで、別に面白くもなんともありません。「三国志」の名場面をビジネスの現場に活かそうなどという、雑誌『プレジデント』ばりの浅知恵と大差ないです。
とりわけ平板なのは、80万の軍勢を率いて、漢王朝を簒奪し、帝位を奪おうと画策する曹操を、「三国志」の記述どおり、ただの悪役としてしか描いていないことです。あろうことか、曹操が赤壁の戦いを起こしたのは、周愈の妻で絶世の美女である小喬を奪うためであったなどという解釈です。
そりゃまあ、小喬は、台湾の超絶美女モデル、リン・チーリンの映画初出演作でもあります。とんでもない美女ですよ、彼女は。
でも、実際の曹操は、漢詩の名手ですし、政治家としてもすぐれており、ただの悪党であるなどということはなかったんですね。このことは、ちゃんと魯迅も書いています。
それに、最後の場面では、なんと、曹操、劉備、孫権、関羽、張飛、趙雲、周愈、小喬が勢ぞろいして、周愈が曹操に「去れ」とか何とか言って、曹操は無傷で去ってゆくんですね。ここで曹操が殺されては、史実に合わなくなるからでしょうけれど。とんでもない、ご都合主義のストーリーです。
ひとつだけよかったのは、孫権の妹が、曹操軍に忍び込み、相手方の兵士と仲良くなり、いざ戦闘となって、相手方の兵士にばったり会うところ。想像通り、彼女の目の前で、相手の兵士は倒れてしまうんですね。それを悲しむ彼女の姿が、一番素敵でした。スターシステムで作られているドラマに、やっとひとつだけ庶民の気持ちが描かれています。
民衆の革命を描いていないところは、中国映画なのにまったく資本に毒されていると感じます。なんたる退廃でしょうか!
『レッド・クリフ』=「三国志」の戦術は、「孫子」の兵法の誤った解釈から脱していません。いや、「坂の上の雲」の、日露戦争時の日本の兵法さえ、そうだったかもしれないのです。ほんとうの「孫子」は「百戦百勝は善の善なるものに非ず。戦わずして人の兵を屈するは善の善なるものなり」と書くように、戦いは国民の生活や国家の存亡がかかっているのであるから、よっぽどでなければ戦端を開いてはいけない、というのです。
つまり、科学的なんですね。そうして、好戦的でもないのですね。
そういえば、北朝鮮なんて、「孫子」以前の兵法を好む国であるからして、とんだ時代遅れもはなはだしいと言わざるをえません。
話が横へそれましたが、結論として、『レッド・クリフ』を1回観る暇があるなら、トリュフォーやフェリーニの映画を観て、人間を勉強するほうがよっぽどビジネスの役に立つのではないでしょうか。

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