ビジネスパーソンは、フロスト警部をめざせ!

2008年に、久しぶりにミステリーのフロスト警部シリーズの新刊翻訳が出た。『フロスト気質』(R.D. ウィングフィールド (著)創元推理文庫)である。
このシリーズは、およそミステリーファンなら、読まない人はいないと思われる人気作品だ。だから、特に解説はいらないと思うが(なぜなら、ネットに山のように感想文が書き込まれているから)、今さらよく読んでみると、フロスト警部もの、ビジネスパーソンのロールモデルとしても読めるんですね。


え? ロールモデルだって? という向きもあるだろう。
そりゃ、そうだ。
なぜといって、フロスト警部といえば、下品、不潔、規則にルーズ、という具合に、およそ社会性の欠如した、格好の悪い、お下劣なオヤジ像そのものだからだ。まあ、この辺は、作品そのもの、あるいは、あまたあるフロストものの解説文を読んでいただければよいのだけれど・・・でもまあ、少しだけ引用してみよう。捜査中のフロスト警部の様子。
(フロスト警部は)ベッドのしたに落ちていた女物の寝巻をつまみあげてみせた。「あのいけない看護婦さんのお寝巻だよ。ありゃりゃ、なんとまあ・・・見てみろよ、この丈。これじゃ、きっと裾からあの可愛らしいおけつの山がはみ出ちまうよ、汁気たっぷりの双子のメロンみたいに」(芹澤恵訳)
と、こんな具合。が、昨今の日本のオフィスでは、こんな台詞を冗談で述べたぐらいでも、セクハラで訴えられかねないので、要注意ではあるのだが。
対するに、上司のマレット警視は、上には媚びへつらい、下(フロスト警部のこと)には厳しく、常に体裁ばかり取り繕う、嫌な上司の典型として描かれている。が、およそ部下からみた上司像なんて、皆、マレット警視に見えているにちがいない。
また、ごりごりの出世主義者、『フロスト気質』で言えばキャシディ警部代行の部長刑事なんてのも、およそつきあいたくないライバルの典型的なタイプである。
フロスト警部はけっして敗北主義者ではないのだけれど、「お先へどうぞ」てな具合に、自分の功績も、すべてこのキャシディ部長刑事に譲ってしまうのだ。キャシディは、マレット警視のおぼえもめでたく、いずれ警部、警視と出世の階段を登ってゆくのは間違いない、と思われる。
フロストの部下としては、(毎度、クリスマスに出勤当番に当たるから)愚痴ばかり述べているウェルズ巡査部長をはじめ、今回は”ワンダー・ウーマン”で、「張り切り嬢ちゃん」のリズ・モード部長刑事が、不眠不休で働いているのだが、彼らの働きぶりに、フロストはなかなか報いてあげられないのだ。なぜなら、フロスト自身がほとんど寝ないで働いているから。
また、本作『フロスト気質』では、お下品で、女性にもあれほど嫌われ者だったフロスト警部が、部下に慕われて頼られる上司に変貌を遂げている。そりゃまあ、出世主義で、部下の心配よりも、上にどう思われているかばかりを気にして仕事をしてる上司なんてのも、なんだかなあという感じだからね。
といったわけで、特に出世を望んでいるわけでもないのに、しかたなくがんばっているフロスト警部の姿こそ、とてつもなくお下劣で、不潔きわまりなく、格好悪いのだけれど、ビジネスパーソンが目指すべき目標なんだと、ここで説明してもわからないだろうなあ。
ですから、まだ読んでない人は、『クリスマスのフロスト』から読んでみてください。
きっと、面白すぎて、電車を乗り過ごすこと、請け合いです。
で、そのうち、あなたのロールモデルとなることでしょう。少なくとも、私はキャシディではなく、フロストのほうがいいな。

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