大暴落 2008

FRBのバーナンキ議長が、サブプライム問題での判断ミスを認めたらしい。実にあっさりしたものだ。自分で言わなくても、FRBの対応が後手に回ったことぐらい、衆目の一致するところだろう。
ジョン・ケネス・ガルブレイスの著書、『大暴落 1929』(日経BP社)を読むと、1929年のFRBも同じ過ちを犯したことが書いてある。すなわち、FRBは景気を悪化させることに対して臆病になり、崩壊寸前の市場に対して、沈黙を守っていたのである。
というわけで、『大暴落 1929』を通して、今の世界恐慌を透かしてみると・・・


1929年の大恐慌は、株価大暴落が引き金になって起こったが、ガルブレイスは慎重に、FRBのせい、とか一部の投機家のせい、などと原因を決めつけることを避けている。つまり、株価の大暴落が起こっても、経済が健全であったら、あそこまで恐慌が長引くことはなかっただろう、ということだ。
恐慌を長引かせた原因を、ガルブレイスは5つ上げている。
1番目は、所得分配が著しく不均衡になったことだ。「1929年には、金持ちは途方もなく金持ちだった。十分なデータはないが、あの年には総人口のわずか5%を占めるに過ぎない最高所得層が、個人所得総額の約3分の1を手にしていたことはほぼ確実である」
一部の所得層の関与が、経済全体に影響を与えてしまう環境があったのだ。
2番目は、大企業、すなわち電力、水道、鉄道などの基幹産業の構造が持株会社と投資信託になっていて、「下流側の事業会社から支払われる配当を、上流側の持株会社が発行した社債の利払いに充てるやり方」をとっていたことだ。「何かの事情で配当が止まったら、社債は利払い不能となっていずれ債務不履行は避けられず、ひいては上から下まで全体が破綻してしまう」のである。
3番目は、好況期でも銀行の基盤が脆弱であり、「29年上半期には、国内各地で計346行が倒産している」状態だったこと。これは現在でもそうで、預金保険機構がきちっとしているアメリカならではの環境だ。
4番目は、リスクカントリーへの国債発行であり、当時のフーバー大統領が「関税の大幅引き上げを行って他国からの輸入を制限」したため、債務国である発展途上国がデフォルトを起こし、ためにアメリカの輸出が落ち込んでしまった。
5番目は、専門家の経済知識がなかったこと。「1920年代後半から30年代前半にかけて経済上の助言をしていた学者や顧問といった人たちは、どうもひどくお粗末だったと思えてならない」と書いてあるは、今の日本もさして変わりはないであろう。
こうした環境の下で、行き過ぎた投機ブームが崩壊した結果、あの大恐慌は起きてしまった。わが国のバブル崩壊も、同じような光景である。ガルブレイスは言う。「ブームが熱を帯びてある点まで達すると、手に入れた財産がすぐに値上がりするかどうかだけに目が行き、その財産を持つことに伴う他の要素はすべて目に入らなくなる。その財産からどれだけ収入が得られるか、あるいはその財産をどれだけ活用できるか。いや長持ちする価値があるのかどうかさえ、面倒なこととして片付けられてしまう」
バブル期にもてはやされた投資信託という信用取引の仕組みも、1920年代後半のアメリカで考案されたものだ。
しかし、いったん株価が下がり始めると、信用取引を行っていた投資家は、追い証と呼ばれる追加の保証金を要求される。しかたなく、健全な株を次から次へと手放さざるを得なくなり、かくして優良株までも売りあびせを被ったあげく、市場全体の株価が崩れてしまうのだ、などといちいち私が説明するまでもないけれど。
無論、株をやっている人間の数は、全人口のうち数パーセントにすぎないだろう。現に、1929年のときも「当時1億2000万あったアメリカの全人口(世帯数で言えば2900万から3000万世帯)のうち、さかんに株取引をしていたのは150万人に過ぎない」とガルブレイスは書いている。「しかも、全員が投機をしていたわけではない。証券会社が委員会に提出した数字によれば、信用取引をしていたのは60万人程度だというから、残り95万人は現金取引だったことになる」ということだ。
そうして、世間はそれみたことか、と投資家と投機家の区別もつかずに言い立てる。ホリエモンが大儲けした後で、詐欺罪で捕まったのを見れば、株なんてやっていたからだ、とでも言わんばかりである。実際、ライブドアの当時の株式は、個人が買えるように、1株単位が細かくなっていた。そのため、多くの一般投資家が、株価の崩れたライブドアの巻き添えになったことが記憶に新しい。
しかし、株をやる人がひとりもいなくなったら、企業は資金を市場で直接調達できなくなり、企業活動は著しく滞ってしまうだろう。
だから、ガルブレイスはそんなことはまったく書いていない。
だが、「金融上の判断と政治上の判断は逆方向に働く」と彼は書く。選挙目当てに、政治家はまるで出鱈目を述べるのだ。だから、税収の根拠のない政策を高々と掲げる政治家が選挙で当選し、消費税増税を口にする議員が落選するのだが、それで事態がよくなることはけっしてないだろう。

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