某国のイージス

海上自衛隊、第三管区海上保安区所属のイージス艦「あなご」は、高知県沖合いにて、国籍不明の潜水艦の暗号無線通信を傍受した。
以下、暗号文の解読。
「お、ついに領海内に入ったぞ」
「艦長、いいんですか? 浮上しなくて。領海内は国際海洋法で、潜水航行は認められていませんよ」


「大丈夫だ。この国は今、政情不安定で、海上警備も手薄だからな。前の防衛庁長官などは、プラモデルの軍艦作りに血道を上げていたくらいだ。今度、総裁選に出るけどな。まあ、そんなわけだから、見つかるまでに1時間半はかかるだろう」
「そういえば、のんびりしてますね。今、この国の首相がいないんでしたっけ」
「いないのではない。辞任表明しただけだ。もっとも、記者会見にはすでに顔を出さなくなっているが。なんでも、奥方との映画見物や買い物に忙しいらしい」
「次の首相候補も変わった人たちばかりですね。アニメおたく、テレビタレント、二世議員、ミリタリーおたく」
「ひとりだけまともに政策論争のできる爺さんがいるがな。もっとも、そいつも、現首相と高校が同窓で、官僚に受けのいいカタブツと来ているから、国民受けはしないが」
「野党もだらしないと聞いています」
「この国は、与党も野党も党首がころころ変わるのだ。ただし、今の野党第一党の党首だって、かつては与党の大物で、今のバラマキスタイルの典型的な政治家だったのを、国民はすっかり忘れているのだ」
「自称口下手、ですけど」
「ま、演説は下手だな。しかし、選挙はうまい。どぶ板式のそれをやらせたら、右に出るものはいないだろう。かつての師匠の、コンピュータ付ブルドーザ首相から、すべてを学んだのだがね」
「ああ、あのだみ声で、皆が物まねする、今太閤とか呼ばれた人ですね。日中友好条約を結んで、ロッキードで獄に入った・・・」
「そこまで細かく説明しては、誰だかすぐにわかってしまうだろう! で、野党党首は、その太閤の手下の小童だったのだよ。それが今や、首相の座を目の前にして、息巻いているんだからなあ。ずいぶん時が経ったものだ」
「艦長、それはそれとして、今度の総裁選、誰が勝つんでしょうね」
「まあ、下馬評はアニメおたくだな。しかし、国民的に人気のK元首相は、テレビキャスター出の女性首相を待望しておる。まあ、選挙を考えたら、女性首相がいいのだけれど、与党が選ぶのはアニメおたくのほうだろう」
「ということは、アニメおたく対口下手の闘いですか」
「このふたりでは、口下手大将の勝ちだろう。が、そんなに長く持たずに政権内不和で、政界再編。そのあとは、満を持して女性首相の誕生。それも長くは続かずに、あっという間に『蟹工船』ブームで党勢を拡大した共産党政権だろう!」
「艦長、そんなことしゃべたら、我々の母国がばれてしまうではないですか。あ! イージス艦に見つかった!」
「お! まずい。急速潜行! 急げ!」
ということで、潜水艦はあっという間に海の底へと逃げていったのであった。
無論、暗号文であったため、彼らが何語で話していたのかは、杳として知ることはできない。

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