52歳リタイアの夢

藤沢周平の『三屋清左衛門残日録』。
52歳で藩主の側用人を辞した清左衛門。
その意外と忙しい隠居生活を描いた、あまりにも有名な短編連作小説。
時代小説嫌いの私は食わず嫌いを続け、白状すれば藤沢周平を読むのさえ初めて。
いやしかしこれは本当に名品と言うほかない。
ぼくもこういう老境にリアリティを感じるようになったということかもしれない。


読者を飽かさない構成力、安心して読める文章力は、今の時代、非凡である。
主人公が、藩内で出世を遂げたが温厚で実務家的な性格、という設定がいい。
あとを継いだ息子も仕事ぶりが評判よく、その嫁も明るく気遣いがきく。
平凡だけど幸福な隠居。
これもこれで男の夢なのでは?
じつはこれ、ぼくの夢でもある。
52歳になったら、当たり前だけど勤続30年である。
そんなにひとつの会社にずっといるというのも気持ち悪い。
とくにぼくがいる会社は本社しかない上に離職率がきわめて低い。
つまり、たとえば同期は互いに歳を取っていくのを、ずっと見ている。
先輩後輩もそうだ。
なんだかものすごく世界が狭い。
もちろん編集の仕事は基本的に会社の外にある。
けれど一回限りの人生なのに、60歳まで38年間も同じ仕事同じ会社というのもなあ。
だから52歳で会社を辞める。
今から、そう決めて準備している。
そのあとどうするかは、準備のあいだに見えてくるのだろう。

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